2008/08/02 (Sat) 1秒+18コマ #1

1秒+18コマ #1
               神山侑子

アニメーションの1秒は24コマの映像を連続させてつくる。
残像を利用し目の錯覚によって動いているようにみせるのだ。
新作の監督に抜擢された本城芳孝(ほんじょう よしたか)は
薄緑色のタイムシートと格闘していた。
仕事を始めてから8年の27歳。一動画マン、原画マンを経てテレビシリーズの総作画監督を
2本担当し、去年から絵コンテと演出も手がけるようになった。
作画ではそれなりの経験があるが、演出としてはまだスタートラインに立ったばかりだ。
制作プロデューサーの風間康介(かざま こうすけ)から話を振られたときには驚いた。
話を持ってきた風間にいたっては入社3年目の25歳。ぺーぺープロデューサーだ。
このにわかづくりのメインスタッフ…聞いたとたんに「大丈夫か!?」と叫んだ
色彩設計の河野えみ子の声は、皆の心の声と思って間違いない。
風間が「ぜひ、お願いしたい」と頼ってきてくれたことは嬉しかったが
河野の一瞬の叫びにみられる社内の反応は、なかなかのプレッシャーだった。
テレビシリーズを2クールで26本、6人のローテーションでコンテを描き、自分で処理する。
できる。物理的には心配していない。だが、信頼関係がモノをいう業界では物理的なスケジュール
だけでは物事を計れない。まだ本城は他社やフリーのスタッフとの繋がりができていないのだ。
作画監督の井上清己(いのうえ きよみ)はここ一週間、スタジオに来ていない。
新人の本城が監督ではやる気がしないのだろうか。
ふとタイムシートを書く手を止めて、先月のページになったままの卓上カレンダーを繰った。
そろそろ卓上カレンダーだけではスケジュールが把握できなくなってきているが、今のところは
プロデューサーの風間がフォローしてくれている。

“作打ち(作画打ち合わせ)は明日だってのに”

本城は井上が苦手だった。社内に机はあるものの、ろくにスタジオ入りせずに自宅作業している。
社員ではなくフリーランスだから別に構わないのだが。
作画スタッフとしては豪腕、という言葉がぴったりな仕事量とスピード、的確なレイアウトで
文句を言わせない男だ。繊細な絵柄を得意とする本城とは似ても似つかない。
体つきもそうだ。本城の体格は170センチそこそこの痩せ型、日に当たらないので色も白い。
髪は近所の美容学校の生徒の練習台になったせいで、肩までの長さにシャギーが入り
アッシュカラーに染められている。女性スタッフのドン、河野はほめてくれたが、男性スタッフ
からは何となく避けられている気がする。いい、いい、と絶賛する風間もどうかと思うが。
井上は190センチの身長とそれに見合った体格、眉は太く大作りな、いわゆる濃い顔だ。
古い言葉で云えば美丈夫というのだろうか。髭をたくわえた口元、睨むような鋭い目つきで
2メートル近い高みから見下ろされるのにはいつまでも慣れない。本城は自分も打ち解けない
タイプであることを棚に上げて、井上を近寄りがたい存在だ と思っていた。

「…さん、本城さん!」

シートの上で鉛筆をさまよわせている本城に風間が声をかけた。

「あ、ああ、何?」

風間は本城の机に山積みになったカット袋を見渡して心配そうな目をした。

「明日の作打ちですけど、井上さんが来られないって電話がありました」

「え…!?」

作画監督が来ない作画打ち合わせなんて、意味がない。しかも第一話だ。

「おまえ、はいそうですかって承知したのか?」

「…すみません…なんで、明日の作打ちは無しということに」

「そんなこと言ったら間に合わないだろ」

「そうなんですけど実際レイアウトは井上さんなんで、あの人こないと無駄っていうか」

どうすんだ、と本城は風間を睨みつけた。
それに仮にもプロデューサーがいちいちスケジュール変更を伝えに来るか?
制作デスクでも進行でもいるだろうに。

「あ、気がついちゃいました?」

「何が」

「あ〜〜、進行の木下、やめちゃったんすよ」

「!!!」

よくあることとは言え、本城は顔が引きつるのを感じた。
そういえば3日ほど顔を見ていない。とすると、進行の木下の代わりに風間が
第一話を動かしているというわけだ。

「一応、わかった。じゃあ来週か?作打ち」

「や、それが、井上さんが1回本城さんと個人的に打ち合わせしたいって言うんですよ」

申し訳無さそうに風間が言った。それでさっきからチラチラと積みあがったカット袋を
見ていたのか。これが終わらなければ本城が席を離れられないだろうと判断していたのだ。

「じょうがないな。で、いつなら来れるんだ、井上さんは?」

「それが…再来週ならって…」

再来週、と聞いて本城はカッと頭に血が上った。
もともとギリギリに組んであるスケジュールなのに、それを知ってて言っているのか。
本城は作画出身ではあるが、作画スタッフの我侭が無限に通るという態度だけは許せなかった。

「間に合うわけない…風間、今晩このカットを見終わったら井上さんの家に行く。
 車出してくれ」

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2008/08/03 (Sun) 1秒+18コマ #2

1秒+18コマ #2
            神山 侑子

「おまえはここで待ってろ」

東京の外れ、神奈川との境にある高層マンションに着くと、
本城はボディにスタジオ名が入ったバンに風間を残し井上の部屋に向かった。
大理石と木材を使った渋い色使いの建物は賃貸マンションではなさそうだ。
さすが、キャリアのある売れっ子作監は違うと言うべきか。
社名ロゴのバンといい、ヨレヨレのジーンズにTシャツの自分といい、
「場違い」をひしひしと感じる。風間がついてきていたら闖入者グループに見えたかもしれない。 

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2008/08/04 (Mon) 1秒+18コマ #3

1秒+18コマ #3
               神山侑子

井上は伸ばしかけていた本城の腕をつかみ、立ち上がらせた。

「痛っ、何するんですか!」

強引に引っ張られ反射的に振り払おうとしたが、本城の倍もの大きさの手に掴まれた手首は
びくともしなかった。
そのまま半開きになっていた仕事部屋のドアに押し付けられる。
体が近くなると、何かの香料と井上の体臭を感じた。ムスクというのか?
どこか香辛料のような匂いもあり、白いくたびれたシャツから覗く太い首から発しているようだ。

「お前が監督なんだからどんなカットにするのかは確かにお前の自由だ。だがな、お前だって
 本当はAパートのラストがあんな緊張感のないもんじゃダメだと思ってるんだろ?」

「あのコンテだって、色々勉強して描いたんです。いくら作監だからって、監督のコンテを
 全否定されるいわれはない!」

掴まれた手首が軋むように痛い。このままでは潰されそうだ。
本城は脂汗を滲ませて井上を正面から見据えた。

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2008/08/08 (Fri) 1秒18コマ #4

1秒+18コマ #4
               神山侑子

何、だと___!? 

本城は耳を疑った。あまりにも卑猥で、屈辱的だった。
そう思う間に井上は本城の唇を奪い強引に口をこじ開け、きつく舌を絡めてくる。

「ん___っ、んッ…」

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2008/08/13 (Wed) 1秒+18コマ #5

1秒+18コマ #5
               神山侑子

電話はブツリと切られ、何度かけ直してもつながらなかった。
風間は部屋まで行ってみようか、と車を降りてエントランスまで行ったが
結局は駐車場に戻ってきてしまった。

“打ち合わせの邪魔しちゃ悪いしな…__でも、何か変だった”

時計は午前2時を指している。
本城のことは気にかかるが、スタジオに戻らないと明日、ではない今日の打ち合わせから
支障が出始めるだろう。
風間は妙な胸騒ぎをもてあましながら、環八を北上して新宿方面に向かった。

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プロフィール

神山 侑子

Author:神山 侑子
__________
東京都在住。
耽美的創作物に耽溺。
改める気配まるでナシ。
___________

このサイトの小説には
性的描写があります。。
同性愛表現が苦手な方や
15歳未満の方にはおすすめ
できません。

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